| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-204  (Poster presentation)

サクラマスの分布拡大と生息密度の上昇:河川環境の復元や放流とは独立して

*佐橋玄記(東大院農), 森田健太郎(水産機構・北水研), 岸大弼(岐阜県水産研究所)

人間活動は、生物の分布と生息密度を大きく変化させうる。北海道の河川に棲むサクラマスについても、生息環境の復元工事や稚魚放流が分布拡大と生息密度の上昇をもたらすことが示唆されているが、人間活動の影響とは独立した変化にはあまり着目されてこなかった。本研究では、生息環境の破壊や復元、放流が行われていない河川でサクラマスの分布と生息密度の変化を調べた。

北海道において、サクラマスは遡河回遊型の生活史を持ち、川で数年間を過ごした後、ほぼ全ての雌は降海する。一方で、同所的に棲むオショロコマやニジマスは、全ての個体が川で一生を過ごす淡水魚である。本研究では、「大河川の支流」と「独立小河川」という2つのスケールで調査を行った。北海道東部の大河川1支流と独立小河川9河川で、河川生活期の各種の分布と生息密度を2016年と2017年に調べ、同一調査地点の約15年前のデータと比較した。

大河川の支流では、14年前にサクラマスが分布していなかった全ての調査区で新たな分布が確認され、優占種となっていた。また、独立小河川においても、15年前の調査でサクラマスが分布していなかった6河川のうち4河川で新たな分布が確認されるとともに、分布が確認されていた2河川で生息密度の上昇が見られた。一方、オショロコマやニジマスの分布と生息密度には、約15年間で明瞭な変化傾向は認められなかった。

以上のことから、北海道におけるサクラマスの分布拡大と生息密度の上昇には、海を介した移動分散と降海後のサクラマスの生残を左右する海洋環境の好転が寄与していると考えられた。近年、サクラマスの分布拡大と生息密度の上昇が北海道各地で報告され、その原因として、河川環境の復元や放流の効果が指摘される事例が多い。しかし、人間活動の効果を評価するためには、適切に対照区(コントロール)を調べる必要があるだろう。


日本生態学会