| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-207 (Poster presentation)
遺伝的分化度や距離による隔離(Isolation by distance; IBD)の検出といった集団遺伝学的手法は集団間の繋がりや集団構造を示す方法として海産魚類で広く使われている。一方、我が国の水産上重要種を対象に、資源量回復のための人工種苗放流が広く行われているが、異なる海域産の種苗放流による遺伝子汚染や集団構造の消失が懸念されている。本研究では、稚魚放流事業が実施されている瀬戸内海域のマコガレイを対象に、集団遺伝構造を調べた。この解析では、マイクロサテライトーDNAマーカー29遺伝子座を用い、2013年から2016年に瀬戸内海全域で採集されたマコガレイサンプルを対象とした。全集団を対象とした解析では、瀬戸内海東部の大阪湾・播磨灘の集団が、瀬戸内海西部の周防灘・別府湾と中部の燧灘の集団の間に位置し、IBDパターンもみられなかった。周防灘産の稚魚が大阪湾に最も多く放流されているという統計情報から大阪湾・播磨灘と周防灘集団の一部を除き再度解析すると、海域(灘)の位置に則した空間的な集団構造がみられ、IBDパターンも検出された。これらの結果から、瀬戸内海域ではもともとはマコガレイ集団の地理的隔離が生じており、種苗放流による集団構造の消失が示唆された。そのため、灘ごとの親魚を用いた種苗を放流することで、集団の特異性を守ることが推奨される。