| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-213  (Poster presentation)

トゲオオハリアリにおけるバクテリア叢のメタゲノム解析-社会に潜む多様性と分布-

*下地博之(関西学院大学), 伊藤英臣(産総研), 松浦優(琉球大学), 菊池義智(産総研)

昆虫と細菌の多様な共生現象は自然界で普遍的に見られ、昆虫の生存・成長・繁殖に関わるあらゆる側面に大きな影響を与えている。アリは真社会性昆虫と呼ばれ、個体間の分業体制 (例えば、繁殖カーストである女王と労働カーストであるワーカー) のもとで、病原微生物に溢れた土壌を含む様々な環境に営巣し社会を形成する。アリ科においては近年、特にワーカーを対象とした共生細菌に関する知見が多く蓄積されてきた。しかしその一方で、カーストや巣の構造・環境に着目して細菌叢を比較した研究はこれまでほとんど行われてこなかった。本研究では、これまで様々な生物学的知見が蓄積され容易に飼育可能なトゲオオハリアリを対象に、16SrRNA遺伝子のアンプリコンシーケング法を用いて、繁殖カーストである女王と生殖カーストであるオス、労働カーストであるワーカー (巣の中で働く内役と外で採餌する外役) および巣内外の土壌の細菌叢を比較解析した。その結果、巣内土壌の細菌叢は巣外のそれと大きく異なり、独自の群集構造を形成していた。また、巣内土壌とアリの細菌叢も互いに全く異なる群集構造を形成していた。さらに、各カーストの細菌叢を比較解析したところ、ワーカーの細菌叢の多様性が繁殖カーストに比べて著しく低く、採集地に関わらずほとんどの個体で1種の細菌 (Uncultured Firmicutes) が優占していることが明らかとなった。系統解析の結果、本細菌種は先行研究で軍隊アリなどの外役ワーカーにおいて発見された腸内共生細菌と極めて近縁である事が明らかとなった。そして最も興味深いことに、ワーカーでは本細菌種が普遍的かつ優占的に見られるのにも関わらず、生殖カーストでは本細菌種はむしろ少なく、別の細菌種 (Proteobacteria門)が優占していた。以上の結果から、本種における営巣に伴う環境改変、カースト特異的に現れた細菌叢の創出機構および共生バクテリアの機能について議論する。


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