| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-218 (Poster presentation)
北方領土である国後・択捉島にはヒグマ(Ursus arctos)が生息しているが,その生態はほとんど知られていない.一方で隣接する北海道にもたくさんのヒグマが生息しており,その生態研究は盛んに行われている.本研究では,ヒグマの体毛を用いて生元素安定同位体比分析による食性解析を行い,北海道の知床半島ルシャおよび白糠丘陵に生息するヒグマと比較することで,国後島のヒグマの食生態の特徴を明らかにすることを目的とした.各地で収集した体毛は,個体識別後,個体毎の食性履歴を推定するために体毛の成長に沿って毛根側から毛先に向かって5mmずつカットし,その細断区分毎に錫箔に封入したものを試料として,炭素・窒素安定同位体比を測定した.その結果,国後島のヒグマは窒素・炭素同位体比間に強い正の相関がみられ,個体差が小さく,食物資源のバリエーションが小さいことが分かった.どの個体も春の植物食から夏秋はサケ科魚類に移行しており,同様の食性履歴パターンであった.一方,知床半島ルシャのヒグマは国後島の個体に近いパターンを示す個体もいる一方で炭素同位体比が高い個体が検出された.また白糠丘陵のヒグマでは炭素・窒素同位体比に正の相関はみられず,窒素同位体比が低く炭素同位体比が高い個体が多く検出された.これらの個体の多くは農作物やシカを摂取していたと考えられる.つまり,知床半島や白糠丘陵に生息するヒグマは人間活動等の影響により食物資源の利用が制限されたり多様化したため,食性の地域差や個体差がみられたと考えられる.一方,国後島に生息するヒグマはそうした影響がない環境下で豊富なサケ科魚類を利用できるため,どの個体も資源を自由に利用でき,シンプルな食性であることが特徴づけられた.