| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-219 (Poster presentation)
生態系はときにレジームシフトと呼ばれる劇的な状態変化を示すことがあり、生態系のダイナミクスの予測や管理を困難にしている。海洋生物資源においては最大持続可能漁獲量 (maximum sustainable yield: MSY) に基づいた管理方策が国内外で導入されつつあり、再生産関係(親魚量と加入量の関係)に基づいたMSYの推定は重要である。日本の沿岸に生息するスルメイカ個体群の資源量は数十年周期で大きく変動すると考えられているが、資源状態が低いレジームを仮定した場合の再生産関係からはMSYを達成するための親魚量 (Bmsy) が低く推定されるため、乱獲の危険性が懸念されている。
本研究では、目的変数だけでなく説明変数にも誤差を含むことを仮定した変数誤差モデルを用いて、スルメイカ個体群の再生産関係を推定し、レジームシフトの可能性の再検討とMSYの算出を行った。我が国の資源評価におけるスルメイカ秋季発生系群および冬季発生系群の1980年から2015年までの親魚量と加入量の推定値を使用し、XY平面上における観測値と予測値の距離を残差とし、最尤法を用いて再生産関係を推定した。両系群は共通する再生産関係を持つことを仮定し、1990年付近を境にして再生産関係が変化する場合(レジームあり)と変化しない場合(レジーム無し)を比較した。
解析の結果、親魚の誤差を無視したモデルではレジームありの場合の予測力が高かったが、変数誤差モデルではレジームある場合と無いい場合の予測力は同等であり、レジームシフトの可能性が必ずしも高くない可能性が示された。さらに、変数誤差モデルを用いると、レジームの有無によらずBmsyは安定して高く推定された。これらの結果は、1年の寿命を持つスルメイカのように、親魚量の推定誤差が特に大きい生物については、変数誤差モデルを適用することで、頑健で安全な再生産関係およびMSYが推定できる可能性を示唆している。