| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-229  (Poster presentation)

ニホンジカへのGPS首輪自動装着

*大場孝裕(静岡県・森林研セ)

近年,日本各地でニホンジカが増加し,農作物や造林木の食害が深刻化している.高山植物等植生への影響も大きく,自然生態系が改変されている.ニホンジカによる被害や影響を減じるためには,自然増加を上回る捕獲を継続して個体数を削減していく必要があり,効率的・効果的な捕獲を実施するためには,相手であるニホンジカの行動の情報を各地で収集し,その分析に基づき対策を講じることが重要と考えられる.
GPS首輪発信器は,野生動物の位置を高精度かつ高頻度に特定できる行動把握ツールである.実際に,研究機関や行政機関を中心に,ニホンジカへのGPS首輪発信器の装着が試みられ,富士山など一部地域では,季節移動の時期や経路,行動圏の形状等が把握され,その情報が捕獲事業に活用されている.
しかし,GPS首輪発信器を装着するための野生個体の生け捕りは容易ではない.場所を限定すればなおさらである.生け捕りには,麻酔銃やわなが用いられるが,麻酔銃の所持や麻酔薬の使用には許可と専門知識を要し,わなに掛かった個体が逃れようと暴れて傷付き,追跡調査に供せないこともある.不確実性とそれに伴う費用の問題から,GPS首輪発信器は魅力的なツールでありながら利用しにくいという課題を有している.
そこで,ニホンジカを捕獲せずに首輪を装着できないか検討した.首輪の一部に引きバネ(バネは収縮後ロックが掛かり伸長しない)を用いたGPS首輪発信器を試作し,これを給餌器に設置して誘引したところ,野生のニホンジカ4頭に自動装着することができた.
首輪装着用給餌器への誘引・馴化が必要であり,植物が減って餌付けやすい冬季に装着しやすい.警戒されにくい形状の工夫、閉鎖機構の改良を加える必要もある.それでも今回の成功からは,自動装着技術によりGPS首輪発信器の利便性が高まり,深刻化するニホンジカ問題の対策ツールとして活用されることが期待できる.


日本生態学会