| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-230 (Poster presentation)
回遊は多様な分類群で進化した普遍的な行動形質である。回遊生物の中には、産卵繁殖のために出生地へ回帰する習性を示すものがいる。琵琶湖固有亜種ニゴロブナは沖合回遊を行い、水田や内湖のヨシ帯を産卵場として利用することが知られているが、圃場整備による生息地の分断や産卵適地の減少により、絶滅の危機に瀕している。個体数の回復や生育場の保全を図るには、対象魚の生育環境の情報が不可欠であるが、琵琶湖は広く水深も深い為、個体レベルの回遊生態に関する知見を得るのが困難である。
魚類の耳石に含まれる微量元素の組成は、生息環境水や個体の生理成長状態の影響を受けて変化する。また、耳石は硬組織であり、一度耳石に沈着した元素はほとんど代謝回転しないため、生息環境の情報を蓄積・記録するタイムレコーダーの機能を有する。他方、陸水のストロンチウム安定同位体比(87Sr/86Sr)は流域の地質特性を反映し、高い空間異質性を示すため、琵琶湖に流入する個々の河川を判別することが可能である。本研究では、水田および内湖に産卵遡上したニゴロブナについて、耳石の中心部から縁辺部に向けて一定間隔で87Sr/86Sr分析を行い、出生地及び回遊履歴の推定を行った。
滋賀県水産試験場により水田に標識放流され、2年後に出生水田に遡上した標識個体の耳石中心部の87Sr/86Sr値は0.71121±0.00009SE(n=7)となり、出生水田の値(0.71108)に近い値を示した。水田や内湖に遡上した野生個体の耳石中心部の値は、遡上した水田や内湖の水に近い値を示した個体がおり、出生地に回帰している個体の存在が示唆された。また、水田に遡上した野生個体の耳石縁辺部の値(0.7122-0.7127)は、琵琶湖北湖の値(0.7125)に近い値を示し、琵琶湖沖合を回遊後、水田に遡上した事が示唆された。一方で、内湖に遡上した野生個体の中には耳石縁辺部の値が琵琶湖沖合を示す個体と、内湖の値を示す個体がいた。これより琵琶湖沖合を回遊せずに、内湖で生育する個体がいる事が示唆された。