| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-235  (Poster presentation)

多面的機能を発揮するシロアリの兵蟻フェロモンの同定

*三高雄希, 森直樹, 松浦健二(京都大学)

真社会性昆虫のカースト分業は、フェロモンを用いた効率的な化学コミュニケーションシステムによって特徴付けられる。真社会性昆虫の中でもシロアリは、兵蟻と呼ばれる、形態的にコロニー防衛に特化した不妊のカーストを進化させてきた。兵蟻の維持にはコストがかかるため、兵蟻の割合はコロニー内の状況に応じて調整されている。ワーカー集団の中に兵蟻を多く入れるほどワーカーから新兵蟻が分化しにくくなることは昔から知られていたため、兵蟻は兵蟻分化抑制フェロモンを放出することにより新たに分化する兵蟻の数を調整していると予測されてきた。しかし、シロアリの兵蟻分化抑制フェロモンの同定に成功した研究はこれまで存在しなかった。本研究で我々はGC-MS分析と生物試験を用いることにより、ヤマトシロアリにおいて、兵蟻だけが大量に持つ揮発性テルペン類化合物が兵蟻分化抑制フェロモンとして機能することを世界で初めて突き止めた。さらに、この化合物は、ワーカーをその場に留める拘束フェロモンとしての機能と、昆虫病原糸状菌の菌糸成長を抑制する静菌物質としての機能も併せ持っていることも明らかにした。これらの結果は、シロアリの兵蟻はコロニーを捕食者から物理的に防衛する役割だけでなく、巣内の微生物環境を制御する衛生兵としての役割も担っていることを示している。本発表では、シロアリの兵蟻の役割について再検討し、兵蟻フェロモンがどのように多機能化してきたのかついて考察する。


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