| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-243 (Poster presentation)
モンゴルの草原地帯に生息する有蹄類モウコガゼル(以下、ガゼル)は、年間数100 kmに及ぶ遊動的な移動を行う。降水量や植物現存量の季節変化や年変動が激しいモンゴルの環境では遊動は適応的だと考えられる。しかし、本研究チームが2015年と2016年の秋に分布域北部で捕獲し、GPS衛星電話システムで追跡中の個体の多くが、冬に捕獲地点から約300 km南下し、翌年および翌々年の春に捕獲地点付近まで戻った。これらの移動は直線的であり、遊動的とされてきたガゼルに、特定の地域を目指して移動する集団と、夏季の生息地として重要な地域が存在する可能性を示唆する。このような重要地域では植物現存量が適度かつその年次間の安定性が高いという仮説の検証を目的とし、夏季(2017年6–8月)に利用された地域の正規化植生指数(NDVI)の特性を分布推定モデルにより評価した。解析には、計8頭のガゼルの夏季の位置情報と、追跡当年(2017年)と15年間(2003–2017年)の、夏季全体および16日単位のNDVIの平均値と変動係数を用いた。分布確率はNDVI値が中程度の場所で高く、モデルへの寄与率は追跡当年のNDVI値よりも15年間の平均値の方が高かった。寄与率が当年値よりも平均値で高かったことは、植物現存量の安定性が重要だという仮説を部分的に支持する。しかし分布確率とNDVIの変動係数の関係は時期により変化し、6月には変動係数が大きい場所で、8月には変動係数が小さい場所で分布確率が高かった。これは植物現存量の安定性が重要な時期が6–8月という期間よりも短いことと、分布確率が高い地域は、植物の成長開始時期の年変動が大きいが、夏季の終わりには植物現存量の安定性が高いことを示唆する。この特性は植生タイプや地形、気象条件と関係している可能性がある。