| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-307  (Poster presentation)

植物と土壌の窒素同位体比に対する土壌の窒素利用可能性の影響―北海道とモンゴルの針葉樹林の比較から―

*藤吉麗, 杉本敦子, 山下洋平, 李肖陽(北海道大学)

 陸上植物と土壌の窒素同位体比の差(Δδ15N)は、窒素循環の空間的な違いを顕在化するための指標であり、Δδ15Nの変動は土壌の窒素利用可能性と関係することが報告されている。本研究は北海道とモンゴルのマツ科針葉樹林で、土壌の窒素利用可能性とΔδ15Nの関係性を比較する事により、異なる生態系間においてΔδ15Nの変動を支配するプロセスの異同を明らかにすることを目的とした。
 北海道のトドマツ林、モンゴルのカラマツ林を対象に、北海道は2011年から2013年、モンゴルは2004年から2012年の複数年間、植物の生長期間(6-9月)に調査を行った。針葉樹の葉と土壌を採取し、窒素同位体比の測定とΔδ15Nを算出した。また、土壌から塩化カリウムを用いて溶存態窒素(DON,NH4+,NO3-)を抽出し、それらの濃度測定を行った。
 Δδ15Nは、モンゴルで-8.4±0.7‰から-1.8±0.1‰、北海道で-8.3±0.4‰から-2.7±0.4‰の範囲で変動し、両地域におけるΔδ15N の値と変動幅は同程度であった。葉と土壌の窒素同位体比の間には、モンゴルで正相関(p < 0.05)、北海道で相関はみられなかった。Δδ15Nと土壌の窒素同位体比の間には、モンゴルで正の相関(p < 0.05)、北海道で負の相関(p < 0.05)がみられ、地域間の違いが確認された。北海道のΔδ15Nは、土壌0-10 cm深に存在する、溶存無機態窒素(NH4+とNO3-)に対するNO3-の割合と正の相関を示した(p < 0.05)。これらの結果はΔδ15Nが両地域で同程度の値を示していても、その値が示すプロセスが異なることを示唆している。窒素利用可能性の低いモンゴルでは、Δδ15Nの変動は土壌微生物の窒素不動化を反映するのに対し、窒素利用可能性の高い北海道では、土壌内の硝化の進行度を反映すると考えられる。土壌の窒素利用可能性の違いは、窒素循環プロセスの違いを通して、Δδ15Nと植物あるいは土壌の窒素同位体比との間の関係に反映されることが示唆された。


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