| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-311 (Poster presentation)
バイオチャーとは有機物を比較的低温・低酸素環境下で加熱して得られる炭化物であり、その施用は土壌圏への安定的な炭素隔離手段として注目されている。森林生態系もこの炭素隔離の場として有望であるが、実際の森林にバイオチャーを散布して生態系の応答を解析した例は少ない。また、耕起によってバイオチャーが土壌に混合される農耕地に対して、林床に層状に散布することが現実的な森林では異なる反応を示す可能性がある。本研究では、森林生態系におけるバイオチャーの層状散布に対する土壌環境や微生物群集特性の応答を明らかにすることを目的とした。
埼玉県本庄市の暖温帯コナラ林内に100 m2方形区を12個設置し、対照区と散布量の異なる2つのバイオチャー散布区(5または10 Mg ha-1)に分けた。2015年11月に市販のバイオチャーを方形区内に層状に散布した。バイオチャー層、その直下のFH層、A層 0-5 cmを2年間経時的に採取し、無機態窒素濃度、微生物呼吸速度などを測定した。また、リン脂質脂肪酸分析法により微生物バイオマスおよび群集構造の変化を解析した。さらに、Biolog法により微生物群集がもつ炭素源資化性を調べた。
バイオチャー散布区では、特にバイオチャー層直下のFH層で全窒素や無機態窒素濃度が低下した。一方、バイオチャー層中の全窒素・無機態窒素濃度は増加していた。バイオチャー散布はA層における微生物諸特性に影響しなかったが、FH層では微生物バイオマスが減少傾向を示し、群集構造や炭素源資化性も変化した。本研究は、バイオチャーの層状散布がその直下の有機質土壌における栄養塩状態や微生物群集に大きな影響を及ぼすことを示したが、今後分解が進んでバイオチャー層直下のFH層が消失したあとに鉱質土層に対しても同様の影響が及ぶかについてより長期に渡って調べる必要があるだろう。