| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-316  (Poster presentation)

尾瀬ヶ原池溏群を用いた水系腐植物質の特性解析

*千賀有希子(東邦大学理学部), 熊崎悠一(東邦大学理学部), 成岡知佳(東邦大学理学部), 野原精一(国立環境研究所)

 溶存有機物(DOM)を構成する物質の1つである水系腐植物質(AHS)は植物などの生物遺骸に由来し,共役系の複雑な構造を有する高分子化合物である.水域生態系においてAHSは生産性や光の透過の程度を左右するといった重要性があるにも関わらず,その動態は不明瞭な部分が多い.本研究では,多くの池溏を有する尾瀬ヶ原を対象に,池塘水中のAHSの量と質を測定し,その動態特性を考察した.
 2015,2016年8月に尾瀬ヶ原の39ヶ所の池溏の表層水を採水した.DOM炭素濃度はTOC計で測定した.AHS量は,AHSをDAX-8樹脂により吸着し,その炭素量を測定した.AHSの質は三次元励起蛍光スペクトル(EEM)法で測定した.EEMの測定条件は励起波長(Ex)220~600 nm,蛍光波長(Em)210~620 nm,バンド幅3 nm,積分時間0.5秒とした.また,多変量解析PARAFACを用いてEEMデータセット(n=174)を解析し,蛍光成分と蛍光強度の検出を行った.さらに,クラスター分析を行い,AHSと環境因子との関係を考察した.
 尾瀬ヶ原池塘における平均DOM炭素濃度は6.9 mgC/L,平均AHS炭素濃度は4.8mgC/Lであった.したがってDOMに占めるAHSの割合は約70%であった.EEMデータをPARAFACにより解析した結果,2種類のAHS様物質が検出された; AHS-1(Ex/Em = <252, 336/485 nm),AHS-2(Ex/Em = <252, 309/406 nm).AHS濃度,成分AHS-1と-2の蛍光強度は,バクテリア数が多い池溏で高くなることが示された.これはAHSの生成にバクテリアが関与しているためと考えられた.また,AHS濃度,成分の蛍光強度は,池溏面積,溶存酸素の値が高くなるほど低くなった.AHSは太陽光を吸収し光分解することが知られている.したがって,池溏面積が大きいほど太陽光を集め,AHSが光分解すると考えられた.さらに太陽光下で溶存酸素が活性酸素となり,AHSの酸化分解を促進すると考えられた.また,AHSとクロロフィルa濃度に関係性はみられず,植物プランクトンに由来するAHSはほとんどないことが示された.


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