| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-032 (Poster presentation)
本研究は、100年前にアメリカから帰化したセイタカアワダチソウとそれを利用する植食性昆虫を対象にして、「生態−進化フィードバック」の観点からセイタカアワダチソウの個体群ベースの形質の変遷と、その変遷が生態系機能(ここでは枯葉の分解)に果たす役割を解明することを目的とする。そのために、日本国内の3個体群(北海道・滋賀・佐賀)とアメリカの3個体群(ミネソタ・カンサス・フロリダ)からセイタカアワダチソウのそれぞれ10遺伝子型を採取し、京大・生態研センター(滋賀県・大津市)の野外ガラス温室と圃場で栽培実験を実施した。
まず、セイタカアワダチソウ個体群間の生得的な形質を比較するため、外部から昆虫が侵入できない野外ガラス温室で各遺伝子型を栽培し、葉の炭素・窒素・フェノール含有量を調べた。その結果、植食性昆虫に対する防衛物質として機能するフェノールの含有量に個体群間で有意な違いがみられた。特に、北海道とミネソタ個体群では滋賀とフロリダ個体群よりもフェノール含有量は少なかった。次に、セイタカアワダチソウと植食性昆虫との相互作用を推察するため、昆虫が摂食できる圃場にこれらの遺伝子型を植え、葉の食害率を個体群間で比較した。その結果、食害率は北海道とミネソタ個体群では高く、滋賀と佐賀およびフロリダ個体群では低かった。さらに、生産された枯葉の形質(炭素・窒素・フェノール含有量)を個体群間で比較したところ、フェノールだけでなく窒素含有量にも有意な違い(滋賀、佐賀およびフロリダ個体群では他の個体群よりもフェノールが多く窒素が少ない)がみられた。フェノールや窒素は枯葉の分解を左右する主成分として知られ、一般にフェノールが多く窒素が少ない枯葉ほど分解しにくい。本実験の結果は、帰化地の環境の中で変遷した植物形質が食害の程度に影響し、さらに枯葉の分解過程にまで作用する可能性を示す。