| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-035  (Poster presentation)

標高が異なるコケモモ個体群間の遺伝構造と交配システムの比較

*和久井彬実, 工藤岳(北海道大学)

 コケモモ(Vaccinium vitis-idaea)は日本の高山帯に分布する氷期遺存種であるが、北海道においては、高山帯(標高1400m以上)の他、山地帯(300-900m)の風穴地や、低地帯(100m以下)の海岸草原など低標高域にも小規模な個体群を形成している。これら低標高個体群は、高山個体群と同様、氷期から維持されてきた可能性があるが、その形成背景や維持機構は殆ど未解明である。本研究は、北海道の3つの生育地タイプ(高山、山地、低地)に分布するコケモモ個体群で、遺伝構造と繁殖特性を比較し、低標高個体群の生態遺伝学的特性を解明することを目的とした。
 15か所のコケモモ個体群において、25のラメットから葉と果実を採取し、マイクロサテライト8領域の遺伝解析を行った。同一ラメットの葉と種子の遺伝子型を比較し、個体群毎の他殖率を求めた。また、各個体群において、果実形成率や種子数などの繁殖特性を記録した。得られた結果は、生育地タイプを説明要因、個体群をランダム効果とした一般化線形混合モデルを用いて比較した。
 遺伝解析の結果、北海道のコケモモ個体群は2つのグループに分かれ、高山個体群は全て2倍体、低標高個体群の多くは4倍体である可能性が示唆された。4倍体個体群は2倍体個体群に比べてクローンサイズが大きく、遺伝子型の多様度は低いが、ヘテロ接合度は高い傾向が見られた。高山帯の2倍体個体群では自殖はほとんど見られなかったのに対し、4倍体個体群は高い自殖率を示した。また、山地・低地の4倍体個体群は、高山個体群と比較して結果率・種子生産が低かった。
 山地・低地の4倍体個体群では、クローンが大きく隣花受粉が起こりやすいことに加え、倍数体は遺伝子座当たりの対立遺伝子数が多く有害遺伝子のホモ接合が生じ難いため、自家和合性が高まったと考えられる。従って、低標高に分布する隔離個体群においては、クローン成長に加えて、自殖種子により個体群が維持されている可能性がある。


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