| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-036 (Poster presentation)
現在の分布北限のブナ林は北海道の黒松内低地帯周辺に位置し、後氷期の分布拡大に伴うフロント集団と考えられている。分布フロントにおける拡大種の定着可能性の理解には、拡大種の侵入・定着可能性に効果を持つ生態的要因の評価が不可欠である。新天地での定着可能性・繁栄は、原産地の天敵からの逃避から説明される場合があり「Enemy release hypothesis(天敵解放仮説)」、このプロセスは分布拡大のフロントでも機能することが予測されているが、野外生態系で実証された例はない。そこで、ブナの分布拡大に伴う新天地での定着可能性を「葉や種子の植食者からの逃避による被食圧の低下」の側面から検証するため、ブナの連続分布域内、北限隔離分布域のブナ集団、および北限以北の植栽地のブナを対象に、葉および種子の虫害率、これらの器官へのスペシャリスト植食者の生息の有無から検討した。
その結果、葉の虫害率は分布北限の小集団が点在する幌別岳山塊以北(以東)で顕著に低下した。これは集団の規模、ブナの優占度、葉のスペシャリスト植食者であるブナアオシャチホコの分布欠如と対応していた。種子の虫害率は集団間で大きくばらつく傾向があり、調査地が北に位置するほど低下する地理的傾向は検出できなかった。また、種子のスペシャリスト捕食者は自然分布の北限以北の植栽地でも確認される場合があったが、これらが欠如する植栽地もみられ、このような場所では採集した全種子において虫害を受けていなかった。
以上のことから、ブナの分布フロントにおける葉や種子への被食圧の地理的分布の特徴は器官によって異なり、高い被食圧を持つスペシャリスト植食者の分布欠如と対応する場合があった。このことは、植食者の追随性の制限が、新天地での定着率の増加をもたらす要因の一つである可能性を示唆した。