| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-037 (Poster presentation)
アカマツは本州・四国・九州に分布する日本の主要針葉樹の一つであるが、近年マツ材線虫病被害の拡大により天然資源が減少し、遺伝的多様性の喪失が危惧されている。本種の生息域外での成体保存を検討する上では、保存先の環境に対する応答性の変異を把握し、種の地域性について理解することが不可欠である。しかしながら、これまで日本の樹木については、国内分布域を網羅した体系的な環境適応性の評価は殆ど行われていない。こうしたことから、林木育種センターでは2013年より、アカマツの広域産地試験に着手し、これまでに1試験地における実生の発芽時期や伸長成長時期等の地理的変異が認められている(岩泉ら 2013;2014)。本研究では、2試験地(岡山県勝央町及び高知県香美市)において播種した当年生実生家系の発芽パターンや成長量について調査し、その産地間差や地理的傾向、試験地間でのそれらの傾向の違い等について解析した。
試験は、甲地(青森県)から霧島(宮崎県)にわたる全国11箇所の有名アカマツ天然林内の各5母樹から採種した、55家系の実生後代を対象に行った。勝央試験地では2013年、香美試験地では2017年に、それぞれ4月中旬、家系あたり48粒(24粒×2反復)播種を行い、発芽が停止した15週後まで週1回発芽本数を計測した。また12月には全生育個体の苗高を測定した。
その結果、実生家系の発芽開始時期、発芽終了時期、発芽期間はいずれの試験地においても原産地の緯度・経度と有意な負の相関が認められ、東北日本の家系ほど全体的に発芽が早かった。また、上記の発芽の早遅および成長量は2試験地間で有意な正の相関が観察され、発芽の早い(成長量の大きい)家系はいずれの試験地においても相対的に早い(大きい)傾向が認められた。このことから発芽パターンや実生の成長量には、異なる環境下でも共通した地理的変異が表れる可能性が考えられた。