| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-042 (Poster presentation)
近年、北海道大雪山でも気温上昇や融雪時期の早期化が進み、その高山生態系への影響が懸念されている。大雪山五色ヶ原では高山湿性草原(お花畑)を代表する多年生草本エゾノハクサンイチゲの衰退が1990年代から起きている。本研究では、雪解け時期が異なる場所に生育するエゾノハクサンイチゲの個体群動態を比較することで、環境変化に対する局所個体群の応答メカニズムを明らかにする。
2010年から2012年にかけて大雪山化雲岳で雪解けの早い場所(サイトA)、中程度の場所(サイトB)、遅い場所(サイトC)で個体追跡調査し、推移行列解析を行った。各サイトは隣接しており個体群間の種子移動の可能性も考慮した。2012年には分布域の変化を明らかにするため植生調査を行った。
1988年に分布が確認されていなかったサイトCで、2012年には個体の定着が確認された。サイトAは個体密度が低く、繁殖個体の割合が4%と他サイトに比べて低く、また繁殖個体の花数も少なかった。新たに分布が確認されたサイトCでは繁殖個体の割合が14%と高く、繁殖サイズステージへの移行率も高かった。推移行列の解析結果、成熟個体の生存が個体群の維持に最も重要な要素であり、この傾向はより雪解けの遅い場所ほど強かった。個体群成長率は全ての個体群で1を超えており、今後も個体群の存続が期待できるが、サイトAでは出現実生の半数をサイト外からの移入種子に頼っていると推測された。
雪解けの早い場所に生育するエゾノハクサンイチゲは、少数の成熟個体による繁殖と隣接個体群からの種子移入によって個体群を維持していた。一方で、雪解けの遅い場所は、融雪時期の早期化による生育期間の延長によって新たな個体群の形成場所として機能していた。これは、気候変動によって雪解けの早期化や乾燥化が進み繁殖活性が低下すると、特に周囲から孤立した個体群では急速な衰退が起こることを示唆している。