| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-048  (Poster presentation)

カタクリの鱗茎付属部は母球の底盤部に由来する

*勝川健三(弘前大学・教育), 小山内圭吾(弘前大学・教育), 本多和茂(弘前大学・農生)

【目的】Kawano(1982)はごく稀ではあるもののカタクリ自然集団中に鱗茎付属部の一部が介在して複数の地上部シュートを生ずる個体を確認し,本多ら(2017)はカタクリの鱗茎付属部を用いた人為的な栄養繁殖の可能性を見出した。しかしその付属部形成の詳細は明らかでない。そこで鱗茎付属部がどのように形成されるのかを明らかにするための試験を行った。【材料及び方法】2016年9月20日,自生地(弘前市大和沢)からカタクリ鱗茎を掘り上げた。外皮と付属部を除去し94球を選抜,10月12日に粒状綿を用いて1球ずつ栽培容器に植付けた。植付け後弘前大学教育学部内の露地に置床,11月から2017年6月にかけて植物体を非破壊的に観察した。開花個体はその花殻を切除した。【結果】植付け後すぐに発根がみられ,3月に萌芽,4月に展葉と開花がみられ(開花率61%),この時から母球鱗片葉の消耗が観察された。4月25日には地上部が黄変,母球鱗片葉に褐変がみられたが,母球底盤部は消失せず,そのままの形状で残存した。やがて母球鱗片葉の基部が裂けて新たな鱗片葉が下方に露出,その後肥大して新鱗茎になった。以上,カタクリは更新型有皮鱗茎で,前述した母球底盤部は残存して新鱗茎に付着,これが鱗茎付属部になった。カタクリの鱗茎付属部は1シーズンに1球しか形成しないことも明らかになった。なお,得られた新鱗茎は母球に比べ明らかに小さかったにも関わらず付属部を形成した。この高い付属部形成率(89%)は,本試験で花殻を除去して種子形成を妨げたことが影響を及ぼしているかもしれない。すなわち,有性生殖による世代交代ができない場合,カタクリは同化産物の転流を栄養繁殖のポテンシャルを有する鱗茎付属部(本多ら,2017)に向かわせしめるのではないかとも考えられたので,今後は開花・結実の有無が付属部形成に及ぼす影響について検討する。


日本生態学会