| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-063  (Poster presentation)

サワシロギクの蛇紋岩適応に微生物は関与しているか

*西野貴子(大阪府立大学), 真鍋遼(大阪府立大学), 中村剛士(大阪府立大学), 福島慶太郎(首都大学東京), 阪口翔太(京都大学), 石川直子(東京大学), 伊藤元己(東京大学)

 金属の高含有や貧栄養は植物の生育ストレスであり、そうした蛇紋岩土壌地帯への侵入は、そのストレスに即時に応答できる生理形質を備えた個体のみが可能である。その後、世代を経て独自の生活史形質の分化が生じていくと考えられる。
 サワシロギクAster rugulosus には、生育地に対応した生態型があり、日本全国に点在している湿地型と、東海地方のみに局在している蛇紋岩型がある。湿地型と蛇紋岩型の生態的分化は草型や繁殖特性にもあらわれ、特に蛇紋岩型での集団分化が顕著である。同様に、蛇紋岩土壌への侵入を決定づける蛇紋岩耐性についても、蛇紋岩型の集団間に違いがあり、播種実験によりNi耐性の強さが要因であることが明らかになった。こうした植物側の生理的応答が侵入時には大きく影響する一方、その後の集団の確立にはほかの生物との相互作用などを含む総合的な蛇紋岩耐性が関与しうる。そこで今回は、微生物との相互作用のスクリーニングを行った。
 種子と土壌の滅菌の有無を組み合わせた播種実験から、土壌微生物の影響は発芽率や初期成長に差は見られなかったが、種子を滅菌するとどの生態型でも発芽率が低下した。特に蛇紋岩型Aでの蛇紋岩土壌への播種において、種子を滅菌すると発芽率が6割以上も有意に低下した。このことから、発芽の保護や促進をする物質、もしくは微生物の種子表面での存在、または種子滅菌の操作によるダメージが考えられるが、栽培用土での播種では種子の滅菌操作の有無による発芽率の有意差はなかったことから、滅菌操作による影響の可能性は低い。また、次世代シーケンサーによる生育地の土壌や植物本体表面の菌叢解析を行ったところ、蛇紋岩地帯特有の微生物は見いだせなかった。今回の結果は、蛇紋岩土壌などの外的環境に存在する微生物との相互作用よりも、種子表面の物質や微生物、さらには垂直伝播する内生菌による相互作用が集団確立時に獲得された可能性を示唆する。


日本生態学会