| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-103 (Poster presentation)
植物の根と菌類との共生体である菌根は陸上植物の約90%が形成し、植物の水分吸収や無機養分の吸収能を高め、植物の生育を支える重要な存在である。菌根菌にはAM(アーバスキュラー菌根)菌と外生菌根菌等があり、前者は草本から樹木まで広い範囲の植物種と菌根を形成するが、後者が胞子の風散布を行うのに対し、前者は大型の胞子を地中に形成するため、強力な分散能力を持たない。これまでにミミズやツバメなど土壌を運搬する動物群により土壌粒子とともに運ばれるという報告があるが、まだ研究は少なく、さらなる知見の集積が求められている。2017年9月26日に近畿大学奈良キャンパスの通路法面においてチャコウラナメクジが土の窪みで何かを摂食しているのを目撃したため、これを捕らえてビニル袋に入れ、翌日、糞を採取し顕微鏡観察したところ、糞中にアーバスキュラー菌根菌の胞子が観察された。そこで同年10月25日、チャコウラナメクジを40個体夜間採取して個別にビニル袋に入れ、得られた糞をプレパラートとした。その結果、糞中の内容物にはコケやきのこの胞子、地衣類、植物遺体、動物遺体などが多くを占めたが、AM菌の胞子を含むプレパラートが40枚中3枚(7.5%)見出された。そこで糞中の胞子および菌糸が接種源となるのかどうか、燕麦種子を滅菌して得られた実生に糞を接種したものと未接種のものを25本ずつ作成して1ヶ月間培養したところ、糞を接種した苗3本に菌根が形成された。無摂取苗には菌根は形成されなかったことから、チャコウラナメクジの糞中の胞子か菌糸によるものと考えられた。以上から、高頻度ではないもののチャコウラナメクジが野外においてAM菌を運搬していることが示された。