| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-105 (Poster presentation)
外生菌根菌は宿主となる樹木と相利的な共生関係を結ぶ菌類のグループであり、宿主なしでは生育できないことが知られている。しかし、宿主となる樹木には絶滅危惧種に指定され、現在も集団が縮小し続けている種も存在する。これらの宿主の集団縮小は外生菌根菌の集団にも影響を与えると予想される。特に、宿主特異性の高い菌根菌で影響は顕著になると推測されるが、その影響を実際に評価した研究はない。そこで本研究では絶滅危惧種ヤクタネゴヨウとその特異的菌根菌ヤクタネショウロを対象に、宿主集団の縮小が菌根菌の分布と遺伝構造に与える影響を調査した。ヤクタネゴヨウは屋久島と種子島のみに分布するマツ科樹木であり、ヤクタネショウロはヤクタネゴヨウ林以外では検出されていない。今回、ヤクタネゴヨウ人工林で菌根菌を調査した結果、ヤクタネショウロは検出されずヤクタネショウロはヤクタネゴヨウ天然林にのみ分布することが示唆された。また、ヤクタネショウロの埋土胞子分布を調べたところ、林縁から300m以内の範囲までしか確認できなかった。これらの結果から、ヤクタネショウロの分布はヤクタネゴヨウ天然林およびその近傍に限定され、ヤクタネゴヨウとともに分布が縮小・分断化している可能性が示された。また、集団遺伝構造への影響として、集団間の遺伝的分化・近親交配の程度を調べたところ、ヤクタネショウロでヤクタネゴヨウ以上に分化および近交が進んでいることがわかった。これらの結果は、特異的菌根菌も宿主の影響を受け絶滅の可能性があることを示唆するものであり、地下部にも着目した保全対策が必要である。