| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-112 (Poster presentation)
近年,森林内を流れる河川水中には,水中で生活する菌類に加えて,周囲の陸域(集水域)に生息する菌類の遺伝子が含まれうることが示された.これは,河川水を対象に調査を行うことで,集水域の菌類相情報を得られる可能性を示している.しかし,従来の菌類多様性研究の多くは,陸域における植物体や土壌中に含まれる菌類を対象としたものが主であり,河川水を対象とした研究は少ない.そのため,河川水中からどのような菌類が検出されるのかはほとんど分かっていない.
本研究は,菌類メタバーコーディングによって河川水中にどのような菌類が含まれているのか,そして菌類相は時間的な変化がみられるのかを調査することを目的とした.調査地は京都市内にある復元型ビオトープ(約0.6 ha)で,コナラを中心とする森林である,サンプリングは2016年の12月から2017年の9月まで月に1度,ビオトープ内に流れる河川水を3か所で1Lずつ採集することで行った.河川水はフィルターろ過後,キットにより全DNAを抽出し,MiSeqを用いた菌類メタバーコーディングを行った.検出された菌類について,データベースとの比較により分類群と機能群の推定を行った.
合計で4095 OTUが検出された.1サンプル中のOUT数は130から1380 OTUで夏から秋にかけて増加する傾向が見られた.検出されたOTUは1649 OTUが子嚢菌(全OTUの40%),686 OTUが担子菌(同17%),66 OTUがツボカビ(同2%)であった.1092 OTU(全OTUの27%)について機能群の推定を行うことができ,植物体や土壌中で生活する腐生菌が最も多く(615 OTU),次いで植物病原菌を中心とする寄生菌(171 OTU),樹木の根で生活する外生菌根菌を中心とする共生菌(99 OTU)の順であった.OTU組成は時間とともに連続的に変化していた.水中から検出されたDNAと森林内で発生した菌類子実体(きのこ)のDNAには検出・発生時期が一致するものも見られたことから,水中の菌類相の時間変化は,部分的には陸域の子実体の発生フェノロジーを反映していると考えられる.