| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-120  (Poster presentation)

環境・社会要因が文化的生態系サービスに与える影響の空間スケール依存性

*饗庭正寛(東北大学・生命), 柴田嶺(総合地球環境学研究所), 小黒芳生(森林研究・整備機構), 中静透(東北大学・生命, 総合地球環境学研究所)

文化的生態系サービスの地図化事例が盛んに報告されているが、生態学的特性と文化的生態系サービスの実際の利用の関連を示した事例は少ない。また、文化的サービスの特性として、サービスに影響する景観特性の空間スケールが不明瞭なことが指摘されているが、複数のスケールで算出された特性の影響を比較した例はない。本研究では登山愛好者向けSNS・ヤマレコ上に蓄積された登山記録を活用して、様々な景観特性が登山という文化的生態系サービスに与える影響の空間スケール依存性を検証した。
ヤマレコから全国の主要1953峰の登山記録数を抽出し解析に用いた。山頂から半径5km、10km、20km、50km、100kmの5つの空間スケールで、森林率、自然林率、原生林率、自然公園率等の土地被覆、人口密度、道路密度、周辺の最高地点に対する山頂の相対高度等の地形特性を算出した。また、山頂の標高、各種気候、施設の有無等も考慮した。月別の合計登山記録数を応答変数として、勾配ブースティング法によりモデル化した。
生態学的特性に関する変数のうち、5km圏の自然公園率には強い正の効果が、5km圏の原生林率には限定的な正の効果が見られたが、森林率等、他の変数・空間スケールの効果は弱かった。山頂の相対高度は複数の空間スケールで正の効果を示しており、周辺で最も高いクラスの山が強く好まれる傾向が見られた。50km圏、100km圏の人口密度が強い正の効果を示し、ある程度離れた、都市の住民が登山活動の主体であることがわかった。50km圏、100km圏の道路密度も重要であったが、登山記録数との関係は単峰型であった。このことは、交通アクセスが重要である一方、高すぎる道路密度は景観を毀損している可能性を示唆している。
本研究では、景観特性と文化的生態系サービスの関係の空間スケール依存性を実証することに成功した。文化的生態系サービスのこのような特性は、その管理や予測、関連した政策決定においても慎重に考慮すべきであると考える。


日本生態学会