| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-160 (Poster presentation)
体内に有毒物質を持つ被食者同士が互いに似た警告色を持つことで捕食を逃れるミュラー型擬態は、古くから生物学者の関心を引いてきたが、その形成メカニズムが明らかにされた例は稀である。ミドリババヤスデ種複合体(以下ミドリババ)とアマビコヤスデ属は、お互いの分布が重なる本州から九州にかけて、共に似た灰色の体色を呈する。これらヤスデ類は青酸系防御液を分泌することから、この類似はミュラー型擬態環の例と考えられる。演者らは、ミドリババの系統関係を推定した以前の研究から、ミドリババのいくつかの系列は灰色擬態環から祖先状態のオレンジもしくは灰色とオレンジの中間色へと移行し、さらに、オレンジに移行した種の一部はオレンジ擬態環を形成している可能性があることを明らかにした。演者らは、この灰色擬態環からオレンジ擬態環への移行という特異な進化の要因として、鳥類の捕食とハエ類の寄生の関係及び種分化に注目している。灰色擬態環形成では鳥の捕食が重要であると考えられる。一方でハエの寄生は灰色のヤスデ種に偏っており、ハエは灰色のヤスデに選択的に寄生している可能性がある。灰は鳥に対しては有利だが、ハエに対しては不利なのかもしれない。地理的に見るとミドリババにおける灰色擬態環からオレンジへの移行は中部地方西部と関西地方に限られ、中間色への移行もこの地域でよく生じている。この地域では、ミドリババでは交尾器・体サイズの多様化による多発的種分化が生じており、それが体色の多様化を通じて灰色擬態環からオレンジ・中間色への移行を促している可能性がある。本発表では、捕食(寄生)者の違いと種分化が複合的にミュラー型擬態の形成に及ぼす影響について議論する。