| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-161  (Poster presentation)

群集構造に依存した捕食者の体サイズ分化:気候・餌サイズ・近縁種の相対的重要性

*奥崎穣(北海道大学), 曽田貞滋(京都大学)

 動物の体サイズは多くの生態的機能に関わり,異なる多様化淘汰を受ける形質である.体サイズの適応進化を実証するためには複数の淘汰圧と表現型変異の対応を示すだけでなく,対立する表現型を好む淘汰圧の相対的影響と状況依存的な関係も明らかにする必要がある.
 オオオサムシ亜属の小型種ヒメオサムシは西日本に広く分布し,分布域の大部分で大型の近縁種オオオサムシと共存する.この2種の体サイズは生息地の気温と正の相関を示しながら,一定の体サイズ差を維持する.本亜属は年一化の生活史を持っており,ヒメオサムシの成虫体サイズは発育期間および多産性と相関した.体サイズと気温の相関は,発育期間の短縮と多産性の増加という生活史戦略上のトレードオフが気温(標高)勾配によって変化することで生じていると考えられる.また本亜属のオスは異種メスに交尾行動を示すが,ヒメオサムシとオオオサムシの体サイズ差が小さいときに種間交尾と精包形成が観察された.同所的な2種の体サイズ差は,それぞれの種の気温適応だけでなく,種間交尾のコスト(繁殖干渉)によっても維持されているだろう.
 一方,九州の離島や半島ではヒメオサムシは単独で分布するが,それらの集団の一部は気温から予想されるよりも大型化する.オオオサムシ亜属の幼虫はフトミミズ科のみを餌とするが,九州のフトミミズ科の体サイズは系統によって異なり,フトミミズ群集の体サイズ構成は系統構成を反映して地域的に大きく異なっていた.そして,大きいヒメオサムシ幼虫ほど捕食可能なミミズのサイズが大きく,ヒメオサムシは大きいミミズが優占する地域で大型化していた.ただし餌サイズが似た環境であっても,その大型化は近縁種共存域よりも単独分布域で顕著だった.従って,ヒメオサムシの体サイズは高標高では気温によって,近縁種共存域では繁殖干渉によって,単独分布域では餌サイズによって決定されていた.


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