| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-163 (Poster presentation)
南西諸島に生息するシロオビアゲハのメスは、擬態型と非擬態型の二型を有する。擬態型のメラニン化された後翅には複数の白/赤斑紋がみられ、モデルであるベニモンアゲハにベイツ型擬態するための形質だと考えられている。ところが、沖縄島の擬態型の赤斑紋サイズのばらつきは非常に大きく非遺伝的であり、また、後翅の黒色領域と負の相関関係にある。一部の鱗翅目では、翅の損失が繁殖成功度に影響することが知られているが、擬態型は紫外線(UV)による翅の劣化を防ぐために黒色領域の発現領域を変化させていると予測される。
沖縄本島で定期的に採集した擬態型の赤斑紋サイズと捕獲日のUV積算量には負の相関がみられた。さらに、過去60年間の擬態型の赤斑紋サイズの推移を調査すると、それらは減少傾向にあり、モデルの赤斑紋サイズとのギャップが年々拡大していた。室内実験では、野外で採集した母チョウをUV照射下で飼育すると、蛍光照射下で飼育した次世代の擬態型の赤斑紋が小型化することが示唆された。
翅の保護による恩恵は別途調査する必要があるが、エピジェネティックなシステムによる擬態形質の可変的発現は、捕食回避機能の相対的重要性を発生学的・生態学的に理解するための好題になることが期待される。