| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-254 (Poster presentation)
過去の北米での研究から,シカの強度影響下にある森林を皆伐すると,前生稚樹の不足や不嗜好性植物の繁茂によって二次遷移の進行が妨げられ,草地状となった事例が知られている。遷移の妨害と草地化は伐採後にシカを排除しても進行したことから,シカの影響に起因する代替安定状態(ASS)への推移も議論されている。近年,日本でもシカの強度影響下にある森林が増加傾向にあることから,日本でも同様の現象が発生する可能性を検討すべく,房総半島の常緑広葉樹二次林を皆伐し,植生遷移の進行を8年間追跡した。
皆伐後7年半の時点までに,シカの影響が継続した場所では不嗜好性植物を主体とする草地的植生が成立したが,皆伐後に柵を用いてシカを排除した場所は,急速に二次林植生へと移行した。すなわち,シカの影響により二次遷移の妨害や草地化は発生したが,皆伐前の影響によるASSへの移行は生じなかった。過去に薪炭採取などの人為撹乱が卓越していた本研究の調査地では,埋土種子や不定芽をもつ樹種が多く,それらの更新手段がシカの影響下でも維持されたために,ASSへの移行が阻止された可能性がある。
地上高2m以下の植物の種数や生活型の多様性は,皆伐後3年目に最大化し徐々に減少しており,この減少はシカの採食圧と競争による選別によるものと考えられた。皆伐跡地に侵入した先駆種は,シカを排除した場所では7年目までに上層へ到達し繁殖段階に移行したが,シカの影響を受け続けた場所では2年以内にほぼ完全に消失し,グラミノイド類と,アルカロイドや棘などを持つ低木・亜高木へ置換された。シカの影響下では,伐採前から存在していた嗜好性植物の埋土種子や不定芽が,発芽と採食の繰り返しによって枯渇していったと考えられる。したがって,撹乱耐性の高い二次林でも,皆伐が広範囲に及び周囲の森林からの種子供給がない場合,伐採後の草原がASS化する可能性も考えられる。