| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-277  (Poster presentation)

自然資源とデザイン思考

*須賀丈(長野県環境保全研)

過去数十年、中山間地は人口減少による社会的・生態学的課題に直面してきた。経済成長期には、里山等の生物資源を利用する生業が衰退し、海外からの資源利用が増え、地域の自然と生活が切り離された。低成長下の近年では、人間活動の縮小による危機がさらに深刻になっている。
これには生産や消費の動向の変化が伴っている。工業化の時代には産業イノベーションの中心は物づくりに内蔵される技術革新にあった。これに対し近年では、モノに情報やストーリー性を付与するコトにイノベーションの中心が移行している。また地域の自然を広義の資源とみるとき、原材料としての木材等のモノ自体よりも、それを利用するコトの意味や体験が消費者にとってより大きな価値をもつようになりつつある。この変化に伴い、中山間地には外国人を含む旅行者が数多く訪れている。そうした地域の自然環境や生活文化を、訪問者がより深く体験できるよう知識提供することができれば、地域資源の新たな活用可能性が生まれる。
その知識は、個別の知識を一方的に伝えるだけでなく、ユーザーからの評価により魅力的で使いやすく統合・デザインすることもできる。その手法としてデザイン思考が有効であろう。デザイン思考は、意匠デザインを行うデザイナーの発想や方法をより広範な問題解決にも応用するものであり、サービスや社会問題の分野でも改善やイノベーションを生むとされている。その基本的プロセスとして、(1)ユーザーの視点に共感し、(2)潜在的なニーズを発掘すること、(3)ニーズを満たすためのアイデアを柔軟な発想で多数生むこと、(4)プロトタイプ(試行モデル)を作成し、(5)ユーザー評価により見直しや機能の改良を行うこと等があるとされる。デザイン思考は、ユーザー中心の視点で体験のイノベーションをもたらす手法である。この手法で知識編集を行うことにより、自然資源の文化的価値を向上させることが可能である。


日本生態学会