| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
シンポジウム S05-1 (Presentation in Symposium)
古琵琶湖層群からのコイ科の化石は、咽頭歯として産出する。咽頭歯化石は量的な扱いができ、魚類相の変遷を知るのに有効な材料である。これまでに明らかにされた咽頭歯化石からわかる琵琶湖の魚類相の変遷について紹介する。
古琵琶湖層群は上野累層から堅田累層まで7つに区分され、それぞれの地層を堆積させた湖沼や河川のようすが復元されている。この間、古琵琶湖という湖が継続して存在したわけではない。最下部の上野累層大山田粘土層を堆積させた「大山田湖」のコイ科魚類相は、現在の琵琶湖のものとは違って、全て絶滅種からなる。その構成は、コイ、クセノキプリスやクルター亜科が多く、その他にもカマツカ、ウグイ、ダニオ、レンギョ亜科の化石が見つかる。現在の琵琶湖よりも亜科の数が多い。当時の大陸のコイ科魚類相を代表する楡社盆地、あるいは中新世前期の「日本列島」のコイ科魚類相とよく類似している。
古琵琶湖層群の最上位の堅田累層の佐川粘土層までコイ亜科、数は減るもののクセノキプリス、クルター亜科からなる魚類相は継続している。佐川粘土層で特筆すべきことは、ゲンゴロウブナ、ワタカといった琵琶湖の固有種の直接の先祖と思われるものが出土することである。ワタカ以外のクルター類やクセノキプリス類は現在の日本列島には分布していないが、縄文遺跡からは、クセノキプリス類やクルター類、あるいはジョウモンゴイと呼ばれる絶滅種の化石が出土している。日本列島の魚類相の形成は約100万年前の日本列島型淡水環境の成立に関わっているが、2500年前の淡水環境の人為的な改変も意外に大きく影響しているようだ。
ところで咽頭歯のサイズはコンマ数mmから数cmまでである。これらの化石を露頭で探すと数cmのものばかりに目がいってしまう。上記の話は数cmの化石を中心にした話である。細かいメッシュで水洗選別する定量分析を行えば、魚類相の構成は違ってくるはずである。