| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S05-5  (Presentation in Symposium)

地史・化石・ゲノム情報から琵琶湖固有カワニナ属の多様化の歴史を紐解く

*三浦収(高知大学)

湖の拡大は新たな生息場所を創出し、湖に生息する生物の多様化を促進することが知られている。例えば、アフリカの古代湖に生息するカワスズメダイの仲間は、過去に生じた湖盆の拡大後に急速に適応放散し、数百から数千種にまで多様化したことが報告されている。琵琶湖は、その誕生から約400万年の歴史をもつ日本が世界に誇る古代湖である。これまでの地質学的な研究により、琵琶湖は過去に湖盆の拡大と縮小を繰り返した複雑な歴史を持つことが明らかになっている。本研究では、琵琶湖の生物の中でも特に多様性の高いカワニナ類の巻貝に注目し、湖盆の変化がカワニナ類の多様化にどのような影響を与えてきたのかを検討した。カワニナ類には豊富な化石記録があり、化石情報を基に絶滅と種分化の歴史を詳細に辿ることが出来る。しかしながら、このような化石記録の充実にもかかわらず、琵琶湖に現在生息する15種のカワニナ類は1種を除いて化石記録には現れない。このことは、現在の琵琶湖に生息するカワニナ類が最近になって急速に多様化したことを示唆している。地質学的な研究から、琵琶湖は、約40万年前に最盛期を迎えた周辺地域の地殻変動により急速に湖盆を拡大したことが示されている。本研究によるゲノム情報を用いた分岐年代推定の結果、琵琶湖のカワニナ類の多様化の大部分は湖盆が拡大した40万年以降の短期間に生じていることが明らかとなった。これらの化石・地質情報・ゲノム解析結果の一致は、湖盆の拡大による急速な適応放散が琵琶湖のカワニナ類でも生じた可能性があることを示している。


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