| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S09-4  (Presentation in Symposium)

都市化と人為的な遺伝子流動: デング熱媒介蚊の集団分化予測

*山口諒(首都大学東京), 立木佑弥(シェフィールド大学), 皆川昇(長崎大学), 岩見真吾(九州大学)

近年、日本を含む多くの地域がデングウイルスの流行およびデング出血熱のリスクに曝されている。公衆衛生上、デングウイルスの流行を制御するための最も重要な対策は、殺虫剤散布による媒介蚊ネッタイシマカ(ベクター)の除去、すなわち“ベクターコントロール”である。しかし、航空機や鉄道、船舶の著しい発達により都市化が進む現在、ヒト移動に伴うベクターの長距離移動は、交通網の発達した都市部のみならず、感染流行の中心地である新興国においてもデングウイルスの予防と制御を困難にする。ベクターコントロールを確立するためには、蚊集団における遺伝分化・流動ダイナミクスの予測が重要になるが、野外ベクター集団の時系列に沿った網羅的サンプリングは極めて難しい。よって、時空間的に限られたデータからの将来予測、さらには広域的な全体像を浮き彫りにするためには、コンピュータシミュレーションによる援用が期待されている。本研究では、デングウイルスの主たる媒介蚊であるネッタイシマカの遺伝分化・流動予測に向けた集団遺伝学モデルを提案する。特に、デング流行地域であり、フェリーの往来ネットワークにより多くの島々が“繋がっている”フィリピンにて得られたマイクロサテライト配列データを、開発した集団遺伝学モデルにより解析する。具体的には、個体ベースシミュレーションによって遺伝マーカーの進化を計算し、抽出可能な要約統計量(e.g., ヘテロ接合度や固定指数)で野外データを再現するパラメーターを近似ベイズ法によって推定した。また、推定されたシミュレーションを用いて、船一隻の往来あたり移動する蚊の個体数や、新たな変異が各島に定着するまでの時間などを計算した。さらに、これら現状の人為的な移出入の理解に加え、ネッタイシマカの将来的な遺伝的集団構造予測と交通流操作に適切な船舶ルート特定の可能性を議論する。


日本生態学会