| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T11-1  (Presentation in Organized Session)

シカによる影響の生態的指標を見る重要性

*梶光一(東京農工大学)

ニホンジカの分布拡大と生息数急増に対し、国は個体数を10年後(2023年度)までに半減させることを宣言した。シカの生息数推定には、これまで直接姿を観察する区画法によって得られた観察密度と糞粒/糞塊数から得られた直線回帰式から推定されてきたが、いずれも過小評価となった。近年は、シカの生息数は、個体数指標(スポットライトセンサス、狩猟者による目撃情報や捕獲情報、糞粒法/糞塊法等)を用いて、「階層ベイズモデル」によって推定されるようになり、多くの自治体で採用されるようになった。独自にモニタリングを実施していない自治体では、環境省による既存のデータをもとに「階層ベイズモデル」で推定した全国版の個体数推定値をローカルスケールに換算したものを利用している。しかし、これらのモデルに用いられている個体数指標と真の個体数の関係について、あるいは個体数推定値や個体数指数の精度評価についての研究はほとんどなされていない。これに対し、エゾシカの個体数管理では、生息数や生活史パラメタなどの情報が正確にはわからない場合であっても、個体数の増減に応じて捕獲圧を調整し、個体群管理を系統的な試行錯誤(為して学ぶ)によって行う順応的管理を採用している。順応的管理とは、密度依存的に変化するシカ個体群指標(体重、体サイズ、繁殖等)と環境指標(植生指標、農業被害額、交通事故等)を生態的指標のセットとして用い、管理を実験ととらえて、生態的指標の反応を検証する方法である。シカの管理計画の目標として、生息密度が掲げられている場合が多いが、生息密度そのものは何も生態的な情報を含んでいない。シカを生態系の構成要素として位置づけ、シカ個体群と生息地の相互作用を示す生態的指標をみる重要性を指摘したい。


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