| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T11-3  (Presentation in Organized Session)

シカ減少期における林床植生の応答

*稲富佳洋, 宇野裕之(道総研環境研)

  阿寒摩周国立公園の阿寒湖周辺では、メスジカ狩猟の先行的な解禁と規制緩和、森林管理者による個体数管理によってシカの生息密度が1993年の27.1頭/㎞2から2009年の9.5頭/㎞2まで減少した(稲富ほか 2012)。その後も個体数管理は継続されており、これまでのところ個体数の増加傾向は確認されていない。1995年、我々は阿寒湖周辺に7か所のシカ排除区と隣接する対照区を設け、2m×2mの方形区内に生育する全植物種の被度(%)及び高さ(cm)を継続的に調査してきた。本発表では、シカ排除区と対照区における林床植生の変化を明らかにし、シカ減少期における林床植生の応答を評価することを目的とした。
  一部の対照区では、生息密度の低下に伴ってクマイザサやエンレイソウ属などの嗜好性植物の現存量が増加傾向を示し、不嗜好性植物であるハンゴンソウが消失したため、林床植生の回復傾向が示唆された。一方、長期にわたってシカの利用頻度が高かった調査区では、シカ排除区でクマイザサが回復したものの、対照区では消失したことから、生息密度が低下してもそれまでの累積的なシカの影響によって元の種構成に戻らない可能性が示唆された。
  このように、シカ排除区を設置し、柵内外の林床植生を継続的に調査することは、林床植生に及ぼす累積的なシカの影響を評価するのに有効であると考えられる。しかし、調査労力が大きく、調査面積が限られること、柵の維持管理にかかる費用や種同定にかかる専門的な知識を継続的に確保することなどが課題となっている。また、短期間では生息密度の低下に伴う植生の変化を十分に検出できない可能性があるため、個体数管理の効果を短期間で評価できる手法の開発が必要だと考える。


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