| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
企画集会 T14-4 (Presentation in Organized Session)
植物において有名な表現型多型の一つに花色多型がある。花色は、訪花者へのアピールをはじめ、被食防御や乾燥耐性等の様々な適応的な特徴を有しており、一般的には地域・集団ごとに単型化する傾向がある。しかし、花色が単一化せず、近接した場所で異なる花色が生じる現象も、いくつかの種で認識されている。例えば、キンポウゲ科のミスミソウは、日本海側で集団内に白~赤~紫~青の花色多型を示す。これまでの研究で、この花色多型が可塑的でないことや、花色間でランダムに交配しているであろうことを示してきた。おそらく、植物における集団内多型の維持機構を考える恰好の材料であると考えている。
HPLCによる色素成分解析では、ミスミソウの花色はアントシアニンの成分を基に三つのタイプ(青、赤、白)に分類できることが示された。この情報を基にRNA-Seqを用いて花色間の発現変動遺伝子を抽出した結果、青-赤間でF3'5'H遺伝子が、青・赤-白間では転写因子であるR2R3MYB遺伝子群や、アントシアニン合成経路で働く複数の遺伝子が検出された。このように、花色の違いの背景には、遺伝的な相違がある事が示唆された。また、野外集団において、集団内の花色頻度や結実率など8項目を計測して、繁殖成功度との関連について一般化線形混合モデルを用いて解析した。その結果、花弁の面積と食害の有無が繁殖成功度に最も関連しており、また食害の受けやすさは他の色に比べて白が顕著に高かった。一方、集団内の花色頻度との間には関係性が見られなかった。
以上の結果から、ミスミソウの花色多型の維持には、これまで示されてきたような訪花昆虫による負の頻度依存選択が関与していない可能性が考えられる。白色花が食害を受けやすいにも関わらず、集団内で一定数が常に担保されている原因は不明であるが、花色ごとに種子の発芽率が異なる可能性や、白色が遺伝的に生じやすい為に、集団内に維持され続けている可能性などが考えられる。