| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
企画集会 T14-5 (Presentation in Organized Session)
集団やグループ内の多様性は、集団全体での資源利用の向上や捕食リスクの分散を通じて集団の生産性を高めることが多くの生物種で報告されているものの、多様性が生態的過程に与える影響は必ずしも一貫していない。一方で、集団内の多様性は、中立的な変異の蓄積や、環境の異なる集団間の移住、集団内での平衡選択などのさまざまな進化過程を通じて成立することが知られている。このことは、多様性の質的な構成は、多様性自身の成立過程によって大きく異なることを意味している。したがって、多様性の成立過程とその生態的機能を結びつけることで、集団内の多様性における多様性-機能関係に関する一般則が導き出せるかもしれない。実際に、多様性が移入や突然変異で保たれる場合と、平衡選択で保たれる場合を想定した数理モデルを作ると、前者では、多様性が集団の生産性に負の影響を与えるのに対して、後者では正の影響を与えることがわかった。すなわち、平衡選択の働く条件ではいずれかの表現型のみで構成される多様性のない集団に比べ、複数の表現型が混ざった多様性のある集団のほうの生産性が高かったのである。よりもキイロショウジョウバエの行動多型を利用して、平衡選択が存在しない状況と存在する状況を実験的に作り出し、行動に多様性のある集団とそうでない集団を飼育すると、平衡選択が存在する場合にのみ生産性に対する多様性の正の効果が認められた。平衡選択の働いていることが知られているアオモンイトトンボの色彩多型を用いた野外実験では、確かに多様性の正の効果が検出されたが、移住により多様性が保たれていると推察されるチリメンカワニナの系では、多様性の増加による正の効果は検出されない。これらの結果をもとに、多様性の成立過程と多様性の機能の間にある背中合わせの関係について議論したい。