| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T16-6  (Presentation in Organized Session)

陸産貝類に見られる島嶼における進化の初期段階

*和田慎一郎(首都大・理工), 千葉聡(東北大・東北アジア)

火山列島は小笠原群島と比較して形成年代が新しく、中でも南硫黄島は人為的な攪乱をほとんど受けずに原生的環境を保持している。そのため、海洋島における生物相の変遷の初期状態を観察できる稀有な島である。発表者らは今回の学術調査隊に参加する機会を得て、十年ぶりとなる南硫黄島の陸産貝類の調査を行なった。調査によって得られた新しい知見に基づいて種構成の見直しを行い、イオウジマノミガイなど新記録種を含む合計14種を見出した。いずれも殻サイズ5mm以下の微小種で、今回新たに記録された種のうち、リュウキュウノミガイ属(Pacificella)の1種は未記載の固有種と考えられる。標高ごとの定量調査では、陸貝が示す種多様性の勾配パターンが中間の標高域で最大になるというベル型を示した。これは他の地域から南硫黄島に移住定着した種が、その故郷の生息環境と類似した環境にかなり限定されて分布する結果であると考えられる。実際、高標高の地点では北ユーラシアに分布の中心をもつ北方系の種が優占し、低標高の地点には熱帯太平洋系の種が優占していた。このことは、島が形成されてから時間を経ていないために、種の分布が祖先集団から引き継いだ生息環境への選好性に強く制約されているためと考えられる。生活形についても、多くの種は他地域の集団や近縁種と違いを示していなかったが、コダマキバサナギガイは、北海道の祖先集団に対し、劇的なニッチの拡大と形態の多様化を示した。またエリマキガイでは、低標高の地点で地上性から樹上性へのニッチシフトがみられた。同じ島で、種によりニッチ保守性の違いを生じている要因や、ニッチ分化を生じているプロセスの解明は、今後の課題である。なお、コダマキバサナギガイには生殖腺に多型があり、他個体と交配するタイプと自殖するタイプが含まれていた。この多型の存在が、島への定着や多様化とどのように関わるのかを解明することも、今後の課題である。


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