| 要旨トップ | ESJ65 自由集会 一覧 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
自由集会 W12 3月14日 18:15-20:15 C会場
フィールド研究と遺伝子情報を融合した研究によって,近年,植物集団の興味深い挙動が明らかにされている。たとえば,地史的時間のなかで植物あるいは植物集団がどのような変遷をたどってきたのかといった研究は,過去から現在に至る壮大な自然史に光をあてるとともに,現在の生態系がいかに危うい状況にあるのかについても示唆している。それらは,われわれが考えるべき種レベルおよび個体群から群集レベルの保全に関する重要な視座とリンクしている。
本集会では陶山佳久氏(東北大)をコメンテーターに迎えて,「断片化した植物集団の遺伝的地域性と多様性保全」をテーマに議論を深めたい。話題提供の概要はつぎの通りである。1)東南アジア熱帯雨林の優占種であるフタバガキ科樹種の空間的遺伝構造を調査した結果,飛翔距離が短い甲虫によって送粉される樹種では,血縁個体が近接して分布していた。樹木個体群の遺伝子流動に対する森林断片化について議論する(名波)。2)植物集団は孤立断片化によって,花粉制限を介した出生率の減少と集団内での近親交配の卓越による近交弱勢の発現を介した死亡率が増加する。タブノキの開花パタンから,集団の孤立断片化と繁殖システムについて議論する(渡部)。3)北海道渡島半島のブナ北限帯では連続した大面積ブナ林から最北限に向かって隔離した小集団が点在する分布様式に変化する。それに伴って遺伝的多様性は徐々に減少する。さまざまな遺伝的パラメータと植物集団の関係についても議論する(北村)。4)渓畔林樹種2種の系統地理と分布の変遷について議論する(金子)。5)愛知県の湿地に生育する周伊勢湾種が,宮崎県の川南町に隔離分布している。両者は遺伝的に分化している種であり,これらは過去の気候変動の遺存種と推定される(渡邊)。
[W12-1] フタバガキ科樹木の遺伝子流動に対する熱帯雨林の断片化の影響
[W12-2] タブノキに見られる異型異熟性と繁殖成功 –孤立小集団の事例-
[W12-3] ブナ最北限域に点在する隔離小集団の遺伝的多様性
[W12-4] 渓畔林樹種2種の系統地理と分布の変遷
[W12-5] 湿地(湿原)の成り立ちと生育する種の実体