| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) A03-01 (Oral presentation)
シロアリなどの社会性昆虫では、多数の個体が協力し秩序だった集団行動を行う。集団行動の際には、フェロモン物質や巣の凹みのような形状刺激等の、各個体が環境中に残すシグナルが重要な役割を果たす。シグナルに各個体が反応することで、全体として秩序だった行動が可能になると考えられている。シロアリでは建築行動を誘発するセメントフェロモンなどのシグナルが知られている。
シロアリコロニーの集団行動では、巣の建築や栄養交換などに液状の腸内容物が頻繁に用いられることが大きな特徴である。建築行動では、建築場所に液状の腸内容物を付着させ、そこに固形の糞を置く行動が繰り返される。また、シロアリは吐き戻し以外に高頻度で腸内容物を肛門から口へ受け渡す栄養交換を行う。木材の消化に必須な原生生物が脱皮の際に失われるため、腸内容物の栄養交換はシロアリの生存にとって不可欠である。以上の例では腸内容物は複雑な一連の行動に組み込まれており、何らかのシグナルを別個体に伝える機能を持っている可能性が考えられる。
本研究では、腸内容物をしみこませたろ紙を入れたシャーレにヤマトシロアリを入れ行動を観察し、ろ紙上の個体数の変化とろ紙の実験前後の重量を計測して、誘因性と摂食の誘発を調べた。さらにこれらの効果のコロニーや種の腸内容物ごとの差について調べた。また、同巣個体の腸内容物の付着したろ紙への糞の蓄積度合いを調査した。
同巣個体の腸内容物をしみこませたろ紙としみこませていないろ紙で比較した場合、より多くの個体が腸内容物の付着したろ紙上に存在し、摂食量も増加した。また、異種の腸内容物が付着したろ紙があると摂食量が減少した。同巣個体の腸内容物が付着したろ紙には、付着していないろ紙と比べてより多くの糞が蓄積した。これらの効果は、建築場所へのワーカーの誘引や、栄養交換の際に貰い手が腸内容物を摂食するためのシグナルになる可能性を示唆する。