| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) A03-02 (Oral presentation)
ベイツ型擬態とは,毒や防御機構を持たない生物種(擬態種)が,毒や防御機構を持つ生物種(有毒種・モデル種)に姿を似せることで,捕食者を“だまし”,捕食から逃れるような,被食者の対捕食者戦略である.これまでにさまざまな分類群でその実例が報告されており,ベイツ型擬態は自然界おいて普遍的な現象である.
モデル種(有毒種)と擬態種の適応度を考えるには,捕食者の学習を考えることが必要不可欠である.そこで,ベイツ型擬態に対する捕食者の学習についての理論研究に注目すると,先行研究には,Huheeyの理論的アプローチに基づくモデル研究と,Speedの理論的アプローチに基づくモデル研究の2種類が存在した.Huheeyの理論的アプローチは,シンプルな方法であるが,非現実的な仮定を含むとの批判もある.一方,Speedのアプローチは,複雑な方法であり,しばしばより現実的であると考えられてきた(現に,直近20年間の理論研究の多くが,Speedのアプローチを採用している).しかしながら,Speedのアプローチでは数学的な解析が困難であり,実証データとの比較も難しいという欠点があった.
本研究で我々は,Huheeyのアプローチに基づいても,十分複雑で現実的な学習モデルを構築できることを発見した.本研究で新たに構築した「拡張Huheeyモデル」は,Speedのアプローチに基づく数理モデルと同じくらい十分複雑で現実的であるにもかかわらず,Huheeyのアプローチの利点である数学的な解析の容易さも兼ね備えている.
我々は「拡張Huheeyモデル」を解析し,捕食者の攻撃率の,種々のパラメータへの依存性を明らかにした.さらに,先行研究の実験データを用い,拡張Huheeyモデルのパラメータの推定を試みた.以上の取り組みにより,十分複雑で現実的な学習モデルを,解析的に取り扱うだけでなく,実証データとも比較できるようになった.これにより,数理モデルの検証が可能となった.