| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) A03-03 (Oral presentation)
様々な種のチョウの雄は、山頂や林内の陽だまりなど、開けた場所で飛来する雌を待つ。同種の雄が飛来すると、2頭がお互いを追いかけ合う「縄張り争い」を行う。従来、この行動は持久戦モデルで理解されていた。しかし、持久戦モデルでは、ディスプレイによってコストがかかるのは相手ではなくて自分なので、ディスプレイをしない個体が有利になってしまう。したがって、持久戦が成立するためには、ディスプレイをしない個体にディスプレイする個体以上のコストがかかる必要があるが、チョウでは具体的なコストが見つからないという難点があった。最近、チョウの縄張り争いは、同性という認識を持たない雄同士が、お互いを異性(雌)に似た何かと認識して、求愛のために追いかけ合う行動だとする誤求愛説が発表された。本研究は、配偶縄張りを持つキアゲハを材料に、誤求愛説の反証を試みた。
殺した直後のキアゲハの雌雄、殺した後で化学物質を抜いた雌雄を、モーターを用いて羽ばたかせた状態で、キアゲハの縄張り雄に提示した。縄張り雄は殺した直後の雌雄に対して強く反応したが、反応の仕方が異なった。雄に対しては頻繁に翅に触れたが、雌に対しては翅に触れた後、雌の周囲を回転飛翔した。これは、生きた雌雄間で見られる求愛シーケンスである。化学物質を抜いた標本に対しては反応が弱かった。
この結果は、雌は情報化学物質を手掛かりに異性と認識して求愛行動を示すが、相手が雄の場合は判断が出来ずに求愛シーケンスが進まないことを示している。従来はその行動を持久戦と解釈していたが、誤求愛説で解釈する方がシンプルである。