| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) B02-03 (Oral presentation)
生物間相互作用が生物群集の動態を駆動する機構と実態の解明は生態学の課題の一つである。同種個体間で遺伝基盤をもつ形質変異は普遍的に存在し、生物間相互作用の帰結に大きな影響を及ぼすことが研究の蓄積により明らかにされてきている。現在、生態系基盤種の種内変異を起点として、自然生態系内における遺伝子から生物群集までの波及効果に注目した研究が広く展開されている。しかし、これらの研究の多くが捕食-被食相互作用の経路に着目する一方、ほとんどの陸上植物が土壌微生物と結んでいる共生関係の経路に焦点を当てた例は少ない。従来、理論研究では共生関係に対して働く最適化機構により遺伝変異は抑制されると考えられてきた。これに反し、野外環境下では共生相互作用の帰結を変え得る共生微生物の遺伝変異が広く存在している。特に、窒素固定細菌との根粒共生における遺伝変異は窒素循環などの生態系プロセスにも多大な影響を与えうるため重要視されている。このことから、野外寄主植物は共生細菌の高い遺伝的多様性に曝されている可能性が考えられるが、寄主個体内に共生している共生細菌の遺伝的多様性を明らかにした研究例はほぼない。そこで、寄主植物個体は遺伝的に多様な共生細菌と共生し、さらに、寄主個体間における共生細菌集団の遺伝的組成の違いは、寄主植物の表現型変異を介し、植物―植食者の相互作用まで波及すると仮説立てた。これらを検証するべく、ケヤマハンノキ-フランキア根粒共生系の野外モデルを用いた以下の研究を行った:1) ホスト個体内における共生細菌のメタゲノム解析、2) 共生細菌の遺伝的組成が異なるホストの葉を用いた植食性昆虫への摂食実験。その結果、1) ホスト個体は系統的に異なる複数の共生細菌と共生していること、2) 共生細菌の遺伝的組成によって、その葉を食べる植食者の成長が異なることがわかった。