| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) B02-04  (Oral presentation)

魚類と甲殻類等に対する水生植物の生態学的有用性に関するシステマティックレビュー
The ecological utility of  aquatic macrophytes in fishes and crustaceans: a systematic review

*上田紘司, 永井孝志(農研機構・農環研)
*Koji UEDA, TAKASHI NAGAI(NIAES)

システマティックレビューとは対象課題の科学的根拠(エビデンス)を系統的に収集・評価し結論を導く手法である。エビデンスの信頼性は、研究手法を基に設定されたエビデンスレベルを利用し評価する。この作業を行うことで対象課題の最新最良の知見を再現性のある形で得ることが可能となる。本研究では、魚類と甲殻類等に対する水草の生態学的有用性についてのシステマティックレビューを行った。2017年までに報告された研究に関して、1)水草が魚類と甲殻類等の生息・産卵環境の提供に与える影響の観点、2)水草の餌資源として魚類と甲殻類等に与える影響の観点から考察した。文献調査の手順は、①文献データベースのWeb of ScienceとJ-STAGEによりキーワードを検索して得られた文献をリストアップ、②タイトルと抄録によるスクリーニング作業、③本文の精読、④データ抽出作業の順で行った。文献収集の結果、490件を今回の該当文献とした。各文献の研究手法をエビデンスレベルとして高中低の3段階で評価した。「高」としてメソコスム・介入試験・胃の内容物・ビデオカメラ調査・ラジオテレメトリー調査を、「中」として横断研究・縦断研究・同位体分析を、「低」として記述調査・シミュレーションを設定した。つまり、高中低の順で魚類と甲殻類等が水草を選択的に利用していることを高いエビデンスで明らかにできることを示す。該当文献の研究手法は、ほとんどが横断研究(中)や記述研究(低)であった。これらの研究手法は、生物が水草帯に存在していたことを調査するものであり、水草が魚類や甲殻類等の生態に対して有用かどうかの決定的な証拠とはならない。魚類と甲殻類等が水草を選択的に利用していることを明らかにするには、メソコスム試験(高)や介入試験(高)のような研究手法が必要であるが、このような文献は数が少なく、今後エビデンスレベルの高い研究手法を採用することが重要であると考えられた。


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