| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) B02-07 (Oral presentation)
ナラ枯れ(ブナ科樹木萎凋病)は、カシノナガキクイムシにより媒介される子嚢菌Raffaelea quercivoraにより引き起こされる樹病であり、近年日本全国でミズナラやコナラといったコナラ属樹木の大量枯死を引き起こしている。大量に発生する枯死木は分解することによりCO2の放出源となり、地球温暖化を促進する可能性が指摘されているが、病虫害による枯死木の分解プロセスが、他の枯死要因(風倒など)による枯死木とどう異なるのか、そのメカニズムをモニタリングから実証した研究はほとんどない。こうした状況を踏まえ、我々は2016年から、ナラ枯れにより当年に枯死したコナラおよび人為的に伐倒したコナラの丸太の分解過程を比較モニタリングするプロジェクトを開始した。プロジェクトの目的は、丸太の分解過程とそれに関わる生物群集の関係を分解初期からモニタリングすることで、ナラ枯れがコナラ丸太の分解に与える影響とその生物学的なメカニズムを解明することである。本発表では、丸太設置2年後までの材分解にナラ枯れが与える影響について報告する。青葉山(宮城県)、山城(京都府)、田野(宮崎県)の3ヶ所に設置した直径19~30cm、長さ1mのコナラ丸太(設置1年の時点で50 cmに切断)の材密度の減少率は、それぞれ16%、28%、35%であり、低緯度ほど分解速度が大きい傾向が見られた。また、設置1年の時点では山城で見られた材密度へのナラ枯れの影響が設置2年の時点では見られず、代わって青葉山で見られた。これらの結果は、ナラ枯れがコナラ枯死木の分解に影響するのは分解初期の段階であり、その後はナラ枯れの影響は消失することを示唆している。