| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) C03-04  (Oral presentation)

有利な形質が進化する突然変異率は?:突然変異間の干渉の影響
How much mutation rates do advantageous traits evolve? : effects of intereference between mutations.

*青柳優太, 酒井聡樹(東北大・生命)
*Yuta AOYAGI, Satoki Sakai(Tohoku Univ. ・ Life Science)

 突然変異の大部分は中立・有害である。そのため、有害変異の発生抑制・既存の有益変異の維持のために、突然変異率は低い方が良いと考えられている。加えて、有利な形質の進化には有益変異の獲得も必要である。有益変異を獲得しやすいのは、どのような突然変異率の場合であろうか。突然変異率が高い場合、複数の変異が生じ、有益変異と有害変異が同時に生じる可能性が高く、表現型に有益な影響が表れにくい。突然変異率が低い場合、突然変異がほとんど生じないために、有益変異のみ生じる可能性があり、表現型に有益な影響が表れることが出来る。そのため、突然変異率が低い方が有利な形質が進化しやすいだろう。本研究では、有利な形質が進化しやすい突然変異率について、数値計算とシミュレーションによる解析を行った。
 計算により、突然変異率と、表現型に有益な影響が表れる確率、および有益な影響が維持される確率の関係を求めた。その結果、突然変異率が低い方が、有益な影響を獲得・維持しやすかった。このことから、突然変異率が低い方が有利な形質が進化しやすいと考えられる。次いで、個体ベースのシミュレーションにより、形質値(競争力)の集団平均の変化を追跡した。シミュレーションでは、同じ突然変異率を持つN個体から成る集団を仮定した。各個体は、個体間競争における生き残りやすさ(競争力)に関わる遺伝子を持つ。各親は毎世代K個体の子を残し、親は死亡する。繁殖時に突然変異が生じ、子の競争力が変化する。次世代に向けての競争時に一部の個体が死亡する。競争力が大きいほど生き残りやすい。
 突然変異率が高い個体から成る集団では、競争力の平均値は減少した。一方、突然変異率が低い個体から成る集団では、競争力の平均値は増加した。
 低い突然変異率は、有害変異の発生抑制・既存の有益変異の維持だけでなく、有益な影響の獲得においても有利であると結論した。


日本生態学会