| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) C03-06 (Oral presentation)
シロアリでは、一般に有翅生殖虫の雌雄がコロニー(♂♀コロニー)を創設して有性生殖する。しかし一部の種では、別々に創設されたコロニーが融合し、1つのコロニーとなることがある。さらに、まれに雌有翅生殖虫2個体がコロニー(♀♀コロニー)を創設して単為生殖することが可能な種もある。
本研究では3つの繁殖様式をとることができるヤマトシロアリを用い、♂♀コロニーや♀♀コロニーの個体の一部を入れ替えた実験コロニーを作成した。さらにこれらを25℃で180日間飼育し、(1)血縁度と遺伝的多様性の大きさ、(2)単為生殖による繁殖、(3)単為生殖で生まれた個体の存在、がコロニーの個体数と増加量に与える影響を調査した。
♂♀コロニーの子を、別な1または2つのコロニー由来の子と入れ替えて飼育した場合、通常の♂♀コロニーよりコロニーの構成個体数は大きくなった。入れ替えたコロニーでは、血縁度低下による負の影響よりも、遺伝的多様性の増加がコロニーの成長に正の効果をもたらしたといえる。この結果は、野外で本種のコロニーが高頻度でコロニー融合を起こしているというデータと整合する。
♂♀コロニーと♀♀コロニーを比較すると、コロニーの構成個体数は前者で大きくなった。もし野外で♀♀コロニーが創設されたとすれば、コロニーの成長率は♂♀コロニーよりも小さいと考えられ、これは単為生殖で生まれた個体の遺伝的特性が成長に負の影響を与えるものと考えられる。本種の野外の成熟コロニーでも単為生殖だけで繁殖するものは見つからない。
♂♀コロニーの子を単為生殖コロニーの子と入れ替えた場合、構成個体数は♂♀コロニーよりも小さくなった。ただし入れ替えの影響は120日後には検出されたが、180日後には検出されなかった。単為生殖で生まれた個体の遺伝的特性による負の効果は、遺伝的多様性の増大による正の効果によって相殺された可能性がある。