| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) D03-04  (Oral presentation)

田之士里湿原の13年間の植生変化
Vegetation  changes  after  13  years  in  Tanoshiri  marsh

*中西正(鳳来寺自然科学博物館)
*Tadashi NAKANISHI(horaiji natural history museum)

  田之士里湿原は豊田市足助町の東端に位置し、面積は約2000㎡である。標高は640mで年平均気温は11℃前後、年間降水量は2000mm程度と推定される。田之士里湿原を含む2.78haが愛知県自然環境地域に指定(1975年1月30日)されている。設置してある3本のベルトで2005,2014,2018年に群落調査を行った。
  東海地方にはヌマガヤ群落の土壌が浅い湧水湿地が多いが、この田之士里湿地は土壌厚が100cmを越える部分もあり、ヌマガヤ群落は認められない。
  群落面積で減少したものはサワギキョウ群落、マアザミ群落、ギボウシ群落など9群落で、逆に増加したものはチゴザサ群落、ヒメシダ群落、ヤマイ群落など9群落であった。
種では、減少したものはエゾミソハギ、サワギキョウ、ムカゴニンジン、ギボウシなどで、増加したものはチゴザサ、ヤマイ、アブラガヤ、サワヒヨドリなどであった。
  減少したサワギキョウ群落、マアザミ群落、ギボウシ群落、エゾミソハギ群落はシカの食害によると考えられる。2005年の調査時にはこれらの群落が大きな面積を占めていた。しかし2014年にはエゾミソハギ群落は群落としては認められないほど少なくなっていた。草丈は140,150cmあるはずのものが、よく見なければ気が付かないほど丈の小さなものがまばらに生えているだけであった。2018年はサワギキョウに食痕を認めた。サワギキョウの植被率が減少した部分もあり、これもシカによる食害と考えられる。
  シカには嗜好性があり、2014年までに減少したエゾミソハギ、サワギキョウ、ギボウシ、ムカゴニンジンは大変好まれ、2014年以降減少したヌマトラノオ、マアザミ、ノイバラ、ノハナショウブ、アギナシ、ゴマナが次いで好まれるといえる。
  シカによる選択的な食害が起き、減少する種がある反面、チゴザサ、ヤマイ、アブラガヤ、サワヒヨドリ、チダケザシ、ヒメシダなど食われないものは増加していた。
  この田之士里湿原ではシカの食害により、植生の変化が起きるほどの影響を受けていた。


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