| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) D03-05 (Oral presentation)
画像に基づく生物種の自動同定技術は、種同定や分布把握に要する労力を削減することで、高い時空間解像度での分布や個体数のマッピングを実現させうる有望な技術になる期待されている。特に近年、画像の特徴抽出と分類を深層学習の枠組みの中で自動的に最適化する畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の技術が画像分類などで大きな成果をあげており、生態学への応用も進みつつある。しかし、CNNは衛星画像中の植生識別にはまだあまり応用されていない。その原因として①衛星画像中の植物群落の形状の不安定性 ②学習に必要となる大量の教師画像を取得の困難 の2点があげられる。筆者らはこの困難を克服するため、教師画像を細切れに分割し、小画像の単位で識別を行う方法(Ise et al., 2018)を考案した。
本研究ではこの手法を衛星画像に適用し、植物群落の識別を試みた。識別は、京都府井手町周辺の約50平方キロの範囲のgoogle earthの画像を用いて行った。研究では14層で構成されるCNNを用いて森林植生のタイプを識別するモデルを構築した。第一段階では、竹林の特定を念頭においた2クラス分類モデルを開発した。次に複数の植生の識別を念頭においた多クラス分類モデル(竹林、広葉樹林、スギ・ヒノキ人工林を識別するモデル)を構築した。最終的にそれぞれのモデルに対して、教師画像とは別の「未知の画像」を与え、識別モデルの精度検証をおこなった。検証の結果、2クラス分類モデルでは約93%の精度で竹林を特定できた。一方、多クラス分類モデルは、人工林は95%、広葉樹林は86%、竹林は83%の精度で植生識別が行えた。また、広葉樹と竹林の間で識別の間違えが頻繁に発生することも明らかになった。以上の結果は、CNNはおおむね正確に植生を識別できるが、その精度は分類クラス数が増加することによって悪化する可能性があることを示唆している。