| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) D03-08 (Oral presentation)
外生菌根菌(以下、菌根菌)の群集は、空間、気候、土壌環境のほか、宿主となる樹種などの要因が関与して形成される。中でも、気温は主要な形成要因として示唆されている。しかし、過去の研究例では混交林や複数の植生帯にまたがる調査のため、樹種など気温以外の影響を必ずしも排除できていない。樹種組成は気温に応じて変化するため、両者の影響を区別することは難しい。そこで本研究では、高山に純林をつくるハイマツに対象を絞ることで、菌根菌の群集形成における気温の寄与を明確化することを試みた。
国内9カ所のハイマツ成熟林に調査区を2つずつ設置し、調査区あたり15地点から土壌コア(リター層、鉱質土層)を採取した。土壌コア中のハイマツ菌根を形態で類別し、菌根から得たrDNA ITS領域の塩基配列に基づいて菌種を同定した。その結果、合計4134の菌根から154の菌根菌種が検出された。菌根菌の群集形成における空間、気候、土壌環境の寄与を冗長性分析(db-RDA)により評価した結果、気候要因(特に気温)によって種組成変化の23.9%が説明され、その寄与が最大であった(空間:17.9%、土壌環境:9.2%)。
続いて、「気温に応じて群集が決まる」という因果関係の証明を試みた。国際塩基配列データベースの登録情報に基づいて、本研究と同じ菌種が確認された場所を探索し、その場所の月別気温データ(WorldClim)を統合して菌種ごとの気温ニッチを求めた。その気温ニッチと各調査区の菌種組成から、理論的にその群集が形成される気温の期待値を算出した。気温の実測値と期待値の相関を検定することにより「気温ニッチの種間差が、気温に応じた種組成変化をもたらす」という仮説を検証した。その結果、夏季の気温データで検証した際に高い相関が認められた(R = 0.60, P = 0.02)。以上より、菌根菌の群集形成には気温、特に夏季の気温が大きく影響すると考えられる。