| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) D03-09 (Oral presentation)
生命のエネルギーの源は光と化学反応 (光合成と化学合成) のただ2つである。従来的な生態学では光エネルギーが生態系のエネルギー量を支配し、化学反応によるエネルギー生産は光合成産物を利用して従属的に決定するとしてきた。しかしながら化学合成は光合成と独立して行われる場合があり、化学合成のエネルギー生産は必ずしも光合成を起点に計算する必要は無い。また、嫌気環境下では化学反応のエネルギー生産性が微生物増殖の主要な律速条件となりうる。熱力学の状態量である反応ギブスエネルギー変化の負の値(−∆rG)は反応あたりのエネルギー生産性 (kJ mol−1) を意味し、化学合成のエネルギー生産性の厳密な定量評価を可能にする。
本研究では微生物の個体群増殖が化学反応あたりのエネルギー生産性に律速されるという条件のもとで数理モデルを用いた個体群動態解析を行った(Seto and Iwasa, in press)。その結果、我々の提案したモデルでは従来的な微生物個体群増殖モデル(e.g., Monodモデル)とは異なる特有の個体群動態が観察されうることが分かった。顕著な例では、Monodモデルでは個体群の基質利用能力が上昇するにつれて定常状態の個体群密度が上昇するのに対し、我々のモデルでは個体群密度の低下が生じる。これは、反応あたりのエネルギー生産性が環境中の反応副生成物の増加に伴って減少するためである。この結果は、従来的な微生物個体群増殖モデルは嫌気条件下の微生物個体群動態をうまく記述できない可能性を示唆し、環境の変化に応答した化学反応あたりのエネルギー生産性の変化を考慮する重要性を意味する。
Seto and Iwasa (in press) Population dynamics of chemotrophs in anaerobic conditions where the metabolic energy acquisition per redox reaction is limited, Journal of Theoretical Biology, doi.org/10.1016/j.jtbi.2019.01.037