| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) F01-06 (Oral presentation)
樹木は様々な外的環境によって傷害を受けることが知られている。カナダの北方林に生育するポプラの幹の年輪においても、傷害組織を幾つか観察できた。本研究では、特に木部形成初期に起こる遅霜による傷害組織の発生に着目し、その発生と気温変化との関係および発生パターンを調べた。
2009年にカナダの4地点においてポプラの一種であるquaking aspen(Populus tremuloides)合計14個体を採取し、地上高1.3mにおける幹の年輪解析を行った。また、2007年にカナダ北西準州南部のウッドバッファロー国立公園北部(60°N, 112°W)に生育する1個体(樹高5.05m、胸高直径3.1cm、25年生)を用いて、地際から梢端まで20cm毎の高さで年輪解析を行った。各高さにおいて30μmの小口面切片を作成し、染色・脱水後、光学顕微鏡で東西南北各方向の年輪を観察した。また、Fort Smithおよび調査地において1時間毎に測定された気温(地上高0mおよび1.5m)から、日積算温度(閾値0℃)、最低気温、零下の時間を計算した。
その結果、凍害年輪は国立公園内の調査地のみの5個体に見られた。日積算温度が471°C・dayに到達して最低気温-8.7℃、零下の時間8時間を経験することで、幹の東西南北、上から下まで傷害組織が形成されたが、梢端と地際では形成されにくい傾向があった。これは樹幹の鉛直方向の気温の違いに関係があると考えられる。また、凍害年輪は3-5年毎に、春先平均気温が高くなると形成される傾向が見られた。このようにして、北方林に生息するポプラは冬の寒さを経験し、春先、気温の上昇と共に木部形成を開始した後、凍結以下の気温を一定時間経験することで、傷害組織を形成する。そのような気候はポプラの成長にとって不利になり、気候温暖化によって春先の気温が上がると、このような遅霜の害が増えると予想される。